20世紀的脱Hi-Fi音響論(延長12回)

 我がオーディオ装置はオーデイオ・マニアが自慢する優秀録音のためではありません(別に悪い録音のマニアではないが。。。)。オーディオ自体その時代の記憶を再生するための装置ということが言えます。「静かにしなさい・・・」は、家庭持ちの悲哀をこめて、オーディオの篭城体制に入った筆者の体験記が切々と綴られています。
静かにしなさい・・・
【なんというか・・・情けない限りで】 【再生装置】
【秘密の花園】
自由気ままな独身時代
(延長戦)結婚とオーディオ
(延長10回)哀愁のヨーロピアン・ジャズ
(延長11回)PIEGA現わる!
(延長13回)嗚呼、ロクハン!!
(延長13回裏)仁義なきウェスタン
(試合後会見)モノラル復権
掲示板
。。。の前に断って置きたいのは
1)自称「音源マニア」である(ソース保有数はモノラル:ステレオ=1:1です)
2)業務用機材に目がない(自主録音も多少やらかします)
3)メインのスピーカーはシングルコーンが基本で4台を使い分けてます
4)なぜかJBL+AltecのPA用スピーカーをモノラルで組んで悦には入ってます。
5)映画、アニメも大好きである(70年代のテレビまんがに闘志を燃やしてます)
という特異な面を持ってますので、その辺は割り引いて閲覧してください。



静かにしなさい・・・


【なんというか・・・情けない限りで】


 ようやく我が家を新築した。しかしオーディオルームを作る経済的な余裕はない。そしてオーディオは居間の飾り物に…。こういうシナリオを辿る人は多いはずである。私もそういう境遇になるとは夢にも思わなかった。ということで、話題はパーソナルオーディオである。

 
 かつての天使は小悪魔に・・・(ヘッドホンはゼンハイザー製HD595)

 実際、私の唯一の婿入り道具ともいえるステレオ装置一式は、居間のテレビと共に「アンパンマン」の超高級再生装置に成り果てました。しかしこのままで黙っておられる私ではない。唯一確保した牙城たる書斎机から這い上がる様をご覧いただきませ。(ああ切ない・・・)


  我がささやかな牙城

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【再生装置】

 ノートパソコン(Windows)でオーディオ再生というと、中途半端な印象を受ける人も多いかもしれない。iTuneなんてインストールして何になるの?・・・これはオーディオマニアの素朴な疑問である。たしかにiTuneはライブラリの整理にはもってこいだが、再生音はなんと言うか歯切れが悪い。まるで50年代のコロンビア音源のよう(といっても判んねぇか)。

再生機器のまとめ
パソコン
ヒューレット・パッカード社 Pavillion tx2000
CD再生ソフト

foobar2000(フリーソフト)
Equaizer→Advanced Limitter→Bauer Sterephonic -to- binaural DSP
WASAPI接続
ヘッドホン

Sennheiser社 HD595


 使っているノートパソコンはヒューレット・パッカード社のPavillion tx2000というもので、特段オーディオ機能に優れたものではない。超小型スピーカーにAltec Lansingの商標が付いているが、今のAltec社はかつての総合音響メーカーではないので、多分Logitcool社のほうが数段上だろう。ただDVDドライブが付いていて、これ単体でCDが聴ける。
 ヘッドホンはSennheiser社のHD595。高域にやや艶やかさがあるものの、低域がファットで高域の線が細い典型的なヨーロピアン・サウンドである。最も気に入っているのは装着感で、重さ270gはプロ機種のHD650より重いのだが、頭全体で支える構造のためかえって軽く感じる。上の小悪魔(?)の装着状態をみてほしい。いわゆる耳を押さえて支えるタイプではなく、頭全体にフィットしているので、子供でも違和感がない。(もっとも個人的には発育期の子供にヘッドホンはあまり勧められない)HD595のインピーダンス120Ωでドライブしやすく、パソコンに直接つないでいる。
 CD再生ソフトは、フリーソフトのfoobar2000。これはロスレス・ファイル(可逆的圧縮ファイル)も使えるが、聴いてみた感想ではCDを直接掛けたほうが、音に潤いがあり鮮度が高い。これだけでもiTuneより数枚皮が剥げたように、音がプリプリしてくる。さらにWASAPI(パソコンのオーディオ機能をバイパスする機能)を使うと、更に獲れたて踊り食いの世界である。

 これ以上の音を求める場合、CDドライブ、USB-DAC、ヘッドホンアンプ、果てはネットワーク・オーディオ・プレイヤーなど、ピンを求めればどこまでも行くだろう。しかし、現在のオーディオ資産を生かし切れない現状では、あまり背伸びしてもしょうがない。

 ここからが私流の料理の仕方なのであるが、イコライザーとDSPの組み合わせで、更に中身を詰めてみる。イコライザーに関しては、Sennheizer社のHD595に合わせているため、参考に留めてほしい(例えばオーディオテクニカ社製のように元々プレゼンスの高い音では全く違うものになるだろう)。

イコライザーの設定例を以下に示す。(リンクは設定ファイルのダウンロード可)
Classic.feq
広いホールでの音響に合わせた設定。ノイマン型の大型コンデンサーマイクの近接効果を補正したときの特性に近い。


Chamber.feq
室内用にプレゼンスをやや高めに設定したもの。ジャズなどのアコースティック楽器のインストに向いている。

Vocal.feq
ボーカルを中心にしたロック&ポップス用に設定したもの。220Hzを盛り上げることで、深くリッチな胸声が聴ける。プレゼンスも高めで、ボーカルが一歩前に出る他、エレキギターの抜けも良好になる。

Rockabilly.feq
これはビンテージのワイドレンジスピーカーを模した特性。ギターアンプの特性そのものである。これで古いラジオ音源やモノラル録音を聞くと、若々しい張りのある音で鳴り渡る。テレビ音声でも同じ効果が得られると思うが、foobarはビデオ対応していないのであしからず。


 DSPは最低限のものを入れている。イコライザーでボリュームアップするとピーク歪みが出るため、Advanced Limitterを掛けている。これは通常は内部ボリュームを-10dBで抑えて、リミッターがほとんど掛からないようにしてダイナミックを維持している。逆にボーカル曲などは、-3dBにしてリミッターを適度に効かせると、FM局で聴くような全体のボリューム感を上げる方法もとれる。一時期FMで毎日のようによく掛かったノラ・ジョーンズなど、実際のCDを聞くと薄っぺらい音でガッカリした人もいると思うが、これは放送局ではリミッターで適度にダイナミックスの平均化をした結果である。
 また、頭内定位を緩和するためにBauer Sterephonic -to- binaural DSPを噛ましている。HD590はもともと頭内定位の違和感が少ない機種だが、これを使うと音響全体に一体感が生まれてくる。従来のバイノーラル・プロセッサーは周波数特性が変わってヘンテコなものも少なくなかったが、これは音質が自然である。

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【秘密の花園】

 以下に適用例のレビューを書くが、普段は大きな音では鳴らせないようなCDでもガンガン聴ける。これはパーソナル・オーディオの意外に良い面である。特にクセ者どもを集めて、隠微な楽しみにふけってみた。これだけ多彩な設定が、比較的容易に切り替えられるのは、とても便利である。

ハイドン弦楽四重奏曲集(1950年代)
ウィーン・コンチェルトハウス四重奏団
設定:Rockabilly.feq

一般には米Westminsterレーベルの録音が有名だが、ここではあえてオーストリア放送協会のアルヒーフを取り上げた。個人的にPreiserレーベルの音決めは一種のトラウマで、高音の丸い典型的なカマボコ特性で、ウィーンの甘い弦の音が全く感じられない。モノラル録音なのでなおさらそう感じる。AKGのコンデンサーマイクで磁気テープ録音は、こんなはずではない。同じ時代のジャズ録音と比べてもかなり変テコなのである。
それでもこの録音に執着するのは、やはり失われた職人気質というか、家庭料理のように気取らない「お袋の味」のような強みがあるからである。
これをロカビリー調に仕立て直すと、不思議と違和感なく音楽に浸れる。この四重奏団のヒューマンな暖かみと、どこまでも作為のない自然な流れに身を任せられる。Preiserの音決めが、改めてラジオ音源の品質管理であったことが判明した。
Live at the BBC(1962〜65)
ザ・ビートルズ
設定:Rockabilly.feq

Coles 4048というリボンマイクで、しかも宙づりのオフマイクで録られた番組収録は、カビくさいモゴモゴした音で、AM放送をエアチェックしたようなノスタルジックな録音である。
しかし、ロカビリー調にイコライズしたとき、音は驚くほど若返る。この張りのある乾いた音調は、手元にあるCossor社のイギリス製ラジオと同じもので、偶然とはいえ全くの驚きだ。10kHz以上はロールオフさせているが、これが逆に音に厚みをもたせている。4人のインストは効果音のない非常にシンプルなもので、このことが幸いしているようにも思える。高音は出ていないのではなく、ヘッドホンでは過度特性が優れているため、逆にこのほうが自然に聞こえる。これはホーンスピーカーを鳴らしたときの感覚に似ている。
ロイヤル・アルバート・ホール・ライブ(1966年)
ボブ・ディラン&ザ・バンド
設定:Vocal.feq(前半)Rockabilly.feq(後半)

この歴史的なコンサートも、当時の録音技術というか、現地での録音クルーの錯綜ぶりが災いして、前半のNAGRA製レコーダーのアコースティック・ステージはまだしも、後半のAmpex製マルチレコーダーでのエレクトリック・ステージはリミッター掛かり離しの潰れた音響で霹靂する。世に言う悪音ライブの典型である。
普通に聴けば、前半戦のアコースティック・ステージのほうがHi-Fiであり、最適なイコライザーの設定もそのようになっている。しかし、ここで評価は一変する。後半戦は、ロカビリー調の音にすることと、リミッターを掛けて音の山をさらに潰すことで、ザ・バンドの音の洪水が迫ってくる。そのなかをディランのボーカルが突き刺さる様は圧巻である。最初のチューニングの儀式からして非常に生々しい。実はRockabilly.feqはプレゼンスが高いだけでなく、クリアネスも上がることが判る。
喫茶ロック〜ソニー・ミュージック編(1971〜75年)
設定:Vocal.feq

いわゆる渋谷系の元祖となった、まったりソフトロック&フォークのオムニバス。そよ風に吹かれているような柔らかな雰囲気は、得てして薄っぺらな低品質録音に聞こえるが、ボーカル域をしっかり捉えると、なんとも親密に青年の主張が耳に飛び込んでいく。ともかく誰もが時代の潮流に流されまいとしていながらも、ただのサラリーマンと主婦になっていった敗走感ただよう中でも、せめて歌手たちはそうではない自由な内心を歌っていたようだ。わざとボーカルをクローズアップして、吐息まで聞こえるほどに近づいてみよう。
Killing me Softly(1973年)
ロバータ・フラック
設定:Vocal.feq

HD595のようなヨーロピアン・サウンドのヘッドホンで、ブラック・コンテンポラリーにどこまで迫れるかの好例。ジャケ絵をみて思い出すのは、某アニメ(ハレのちグゥ…だったけ?)でデフォルメされて出てくる、あの巨大カーリーヘアのバアさん。リミッターぎりぎりまで音量を上げて、写真のピアノ椅子の横に座るくらいまでがんばって近寄ってみましょう。マイクに歯が当たってるとこまで見えれば占めたもの。同じ感触はかのEW&Fのときでもしっかり刻みこまれ、ドラムのバチが顔に当たるようにビチバシ決まる。アナログLPっぽい感触の好きな人は是非試してもらいたい。
魔物語(1980年)
ケイト・ブッシュ
設定:Classic.feq

数あるブリティッシュ・ポップのアルバムの中でも、個人的に5本の指に入る名盤(オペラ座の夜、狂気、アヴァロン、ホモジェニックなど)だが、音響の多彩さからアプローチに戸惑うもののひとつでもある。ここでのアプローチは、ミックスに溶け込ませた素材音のリアリティであり、それが個々に自然な音調を保つという意味で、近接効果を補正するのみのシンプルなイコライジングにした。神出鬼没な素材音のコンセプトを虫眼鏡でのぞき込むようにしたことで、子供が画く絵のように遠近感のない等間隔に散りばめられた感覚が生まれ、このアルバムのもつ無邪気さや不可思議さを十分に表現できているように思う。
コン・アルマ(2003年)
チャノ・ドミンゲス・トリオ
設定:Chamberl.feq

ラテン系ドラムに乗って奏でられるジャズは、フラットのままで聴くと意外に迫力に欠け、しかも音量を上げると高音で鼓膜を潰しかねない。中域のプレゼンスを高めてあげることで、ドラムの躍動感が増し、リズムの切れも良くなる。ドラムといえば、バスドラとシンバルのみが強調されがちだが、スネアの表情がしっかり刻まれているのが好印象である。これは1トラックの迫力満点の演奏よりも、よりスタンダートなアレンジのときのほうが生きてくる。


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