20世紀的脱Hi-Fi音響論(第一夜)

 我がオーディオ装置はオーデイオ・マニアが自慢する優秀録音のためではありません(別に悪い録音のマニアではないが。。。)。オーディオ自体その時代の記憶を再生するための装置ということが言えます。面白いことに映像は平面だが、音響はたとえモノラルでも室内音響の助けを借りて3次元で認識・再現されます。ところで20世紀が残した録音にはどういうものがあるだろうか? 以下、概略ながら追ってみました。


録音年代順のレビュー
 〜1950年以前←   【1960〜70年代】   【1980年以降】 
(前夜)モニターの方法
(第二夜)ホーム・オーディオの夢
(第三夜)闘志を燃やすジャンル
(第四夜)トーキー・サウンド
(第五夜)華麗なる古楽器の世界
(後夜)オーディオの夢の行く末
掲示板
。。。の前に断って置きたいのは
1)自称「音源マニア」である(ソース保有数はモノラル:ステレオ=1:1です)
2)業務用機材に目がない(自主録音も多少やらかします)
3)メインのスピーカーはシングルコーンが基本で4台を使い分けてます
4)なぜかJBL+AltecのPA用スピーカーをモノラルで組んで悦には入ってます。
5)映画、アニメも大好きである(70年代のテレビまんがに闘志を燃やしてます)
という特異な面を持ってますので、その辺は割り引いて閲覧してください。


録音年代順のレビュー

 我がオーディオ装置はオーデイオ・マニアが自慢する優秀録音のためではありません(別に悪い録音のマニアではないが。。。)。オーディオ自体その時代の記憶を再生するための装置ということが言えます。面白いことに映像は平面だが、音響はたとえモノラルでも室内音響の助けを借りて3次元で認識・再現されます。ところで20世紀が残した録音にはどういうものがあるだろうか? 以下、概略ながら追ってみました。

【1960〜1970年代】

 録音環境
 この時代には50年代には各社のローカル・ルールで行っていた録音規準がRIAAによって統一され、電蓄に代わってコンソール型のステレオが高級家電として一般家庭に入る頃です。ポップスでマルチ録音によって未知の電子音響が模索されたり、新しいマルチ・チャンネル再生のフォーマットの開発など、エレクトロニクス技術が進歩的で華々しい時期です。一方でポップ・カルチャーに代表されるように文化全体がチープなスタイルになるのもこの時代の特長です。しかし横綱だけが相撲ではなく、ホームランだけが野球ではありません。これまでの録音でも小市民的な音楽嗜好はあるのですが、これがメディアに前面に出るようになったのが60年代的な出来事だったように思います。


1960年代
JAZZ Sebastien Bach Philips  バッハの名曲をスキャットで演奏した名盤
 スウィングル・シンガーズのクール&ポップな歌唱に脱帽
フランク・ザッパ/Burnt Weeny Sandwich FZ  プログレ界の奇才ザッパの60年末期のアルバム
 自由練達な発想をオーバーダブで更に奇抜に仕上げてる
武満徹/ノヴェンバー・ステップス RCA  小澤征爾&トロント響
 リボン・マイクで収録した邦楽器の音が魅力
コカ・コーラCMアンソロジー CocaCola  60年代アメリカのFMで流れたコカ・コーラCM65連発
 人種の隔たりのないアーチストの選択が楽しい
サイモン&ガーファンクル/NYライヴ1966 Colombia  アコギ1本でのデュオ・ライヴ
 Neumann社のU87を3本だけで収録した好録音
ビートルズ/アンソロジー1 Apple  デビュー前のアセテート盤から英米独仏でのセッションを収録
 60年代のあらゆるメディアで多角的に聴ける稀少音源
1970年代
高田渡/ごあいさつ ベルウッド  アングラ・フォーク出身の名人芸
 素直でまっすぐな録音がかえって痛い笑いをよぶ
クィーン/オペラ座の夜 EMI  ブリティッシュ・ポップの新しいコンセプトを打ち立てた名アルバム
 バンドの演技性を前面に出した成りきり度が凄い
アース・ウィンド&ファイアー/黙示録 CBS  ご存じファンキー&ダンスの最高峰
 ファンクにブラジリアン・リズムを融合した傑作ユニット
山口百恵/ゴールデン・ベスト ソニー  ただのアイドル歌手でなかった筋金入りの芸能人
 演歌からロックまで昭和歌謡の全てを走馬燈のように歌い切る
ブライアン・イーノ/Music for Airports EG  アンビエント・ミュージックというジャンルを打ち立てた傑作
 ミニマルな要素を緻密に織り込みたゆたう雰囲気が最高




 再生機器

E)ニア・フィールド・モニター

富士通テンTD512(目玉おやじ?)


Bill Beard Audio製の真空管アンプBB100
EL84×6のトリプル・プッシュ
(上はトライオード・サプライ社のヘッドホンアンプ)




 ここに来てようやく一般的なオーディオ理論に添った機器の紹介になります。ニアフィールド・モニターはステレオ・ミキシングのバランス調整用に造られた小型スピーカーで、70年代後半からスタジオで使われるようになりました。1m(3フィート)の正三角形の頂点で聴くのが正常な設置となります。通常は部屋の低音の反射で膨らむので100Hzから下は−3dB/oct程で降下していきます。ステレオ音場の再現性は大型スピーカーと比べて非常に見渡し良く、逆にサウンドは質素になります。

 最近になって富士通テンからTD512というシングルコーンのニアフィールド・モニターが発売されました。これがまた素直を絵に描いたような音で、長らく続いた日本製フルレンジの伝統を引き継ぐ好ましい音質です。タイムドメイン理論によってユニットからの発音タイミングの統一性を図る構造を採っていて、小さい割に重量があり卵型エンクロージャーは殻のようにユニットからフローティングされてます。グラファイト繊維のユニットはフォスター電機のOEMだそうで、海外でも概ね好評のようです。

 これを英Bill Beard Audio製の真空管アンプBB100で鳴らしています。EL84×6のトリプル・プッシュで50Wの出力を出せます(出したことはありませんが。。。)。TD512とは特にすばらしく相性が良いというわけではないですが、もともと音の安定度が高く小回りの利くアンプなのでそのまま使っています。ただTD512に関していうと、小出力でもスルーレイトの高いアンプが好ましいらしく、富士通テン純正はICアンプですし、デジタル1bitアンプを推奨する向きもあります。しかしTD512自体はあまりアンプを選ぶ神経質なところもなく、立派なオーディオ誌でもデンオンの中級アンプでも問題ない(そもそも動作原理がしっかりしてるアンプなので)ということが言われています。

 またTD512は70年代初頭に表われたアナログ・シンセの再生にも妙味を出す逸材で、今ではマスターテープの高域が劣化して安いPCM音源以下と思われるシンセサイザー・ミュージックの音でも、元の波形を崩さないというタイムドメインの設計手法が活きてきます。シンセ・ベースのビビッとくるリズム感がしっかり出てくるのも、この時代の未来志向的な感覚をよく再生できていると思います。デザイン的には海外ではスペース・エイジ(宇宙生活をイメージしたSF)という70年代ファッションがあるのですが、日本的にはゲゲゲの鬼太郎の目玉おやじなのだそうです。




下側:ORAM社のパラメトリックイコライザー
中段:DegiTech社の真空管マイク・プリ
上段:Lexicon社のデジタル・エフェクター


普通のミキサーに付いてるイコライザー
Lo:80Hz Mid:2.5kHz Hi:12kHz




 またAES研究部会のBruce Bartlett氏の論文での再生音量の差を調整するために英ORAM社のパラメトリック・イコライザー Hi-Def 35 を常用しています。以下のグラフはノイマン型の大型ダイヤフラム・コンデンサーマイクによる近接効果(4cm→30.5cm)とスピーカーのラウドネス曲線(110dB→80dB)を組合わせて補完した特性で、自分の耳で合わせた設定との比較を並べます。


イコライザー調整方法
周波数 ブースト&カット
<80Hz +0dB
200Hz +2dB
800Hz +1dB
3.5kHz −4dB
6kHz −3dB
>9kHz −2dB

 100Hz以下の減衰はTD512の特性によるものを加味して表示しています。こうしてみるとアメリカ製の古いワイドレンジ・ユニットとは逆の特性になっていることがわかります。むしろ古いドイツのフルレンジに近い特性のようです。今日の録音のほとんどにノイマン製の大型ダイヤフラム・マイクが使われていることを考えると、Hi-Fi初期の規格上の争いは50年経った現在、最終的にドイツの理論が勝ち残ったという感じもします。ただし60年代のサウンド・キャラクターは、SM58マイクのリリースに前後して、フラット再生向けに移行する過度期であることへの対策のために多少の変更はします。

 一般にフラットなスピーカーは、小音量では中域が薄く中高域がうるさいのが常識ですが、単純にウーハーが駆動しにくくなる以外にも、上記のような聴感の問題もあるようです。逆に小音量での再生でバランス良く鳴るミニ・コンポなどは、アンプに余力があっても音量を大きくするとピークが目立ってとてもうるさい音になります。そういう意味でもトーンコントロールは本来は中高域を中心に設置するべきように思います。録音用ミキサーに実装されるパラメトリック・イコライザーは80Hz、2.5kHz、12kHzというのが普通なので、実用上からも最低その程度はあってしかるべきだと思います。



 以上、60〜70年代の録音についてニアフィールド・モニターとの関わりで述べましたが、実際にニアフィールドという手法がバランス・エンジニアの間で用いられるようになったのは70年代中盤からのようで、それまではラージモニターで全ての編集作業をこなすというのが普通でした。定番はAltec 604、BBC LS5/6、QUAD ESLなどが60年代の定番で、こうしたモニター環境のなかでアメリカン・サウンドとヨーロピアン・サウンドの差が明確になって行きます。アメリカにおいてはJBLの4343モニターなどが登場する辺りでフラット再生のノウハウが録音にもちこまれるという感じで、特に60年代ロックに関しては古いPA再生用のバランスのものが少なくありません。そういう意味でも上記の2.5kHzのピークを聴感補正するのは必然的な問題で、過度的な情況を乗り切るひとつの妥協策です。これについては後述のロック・コンサートの再生でも紹介したいと思います。私の場合はまず録音の蒐集とその情況を聞き分けることから始めて、ニュートラルなモニター・スピーカーで評価し分別することが当分の作業になってます。そのうち60年代の録音が出揃ったところでこの項は分離し、最適なシステム構築を試みたいようにも思ってます。70年代に関してはこれで十分なモニター環境にあることは確かです。

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【1980年以降】

 録音環境
 この頃の画期的な出来事はPCM方式によるデジタル録音が可能になったことです。ワウフラッター=ゼロ、ノイズレスで全領域で均等な90dBのダイナミックレンジを誇る録音が可能になりました。しかしデジタル特有の小音量での量子化歪みや、初期のアナログ・フィルターの強烈な位相特性の悪さなど手伝って、船出は必ずしも順調ではありませんでしたが、徐々に録音側での演算ビットの増加やデジタル・フィルターの組込みなどの改良を経て90年代にはLPの存在を凌駕するようになりました。また録音の品質管理が圧倒的に楽になり、個人レーベルで質の高い録音が出るようになります。ダビングによる音の劣化が少ないことや音程とリズムを別々に制御・変換できるテクノロジーを武器に、Fairlight社に代表されるようなシーケンサーやサンプラーによるコンピューター・ミュージックが生まれたのもこの時期です。一方でアコーステッィク楽器だけのアンプラグド・コンサートも流行るなど、音楽そのもののを人間のパーソナリティに留めておこうとする努力も続けられることになります。

アストル・ピアソラ
 タンゴ・ゼロ・アワー
Clave  タンゴの革命児と言われたピアソラ晩年の決定盤
 キレのあるダイナミックな音の洪水を楽しめる
ビョーク
 ホモジェニック
Mother  アイスランドの歌姫ビョークの3rdアルバム
 ロンドンを去ってスカンジナビアの風土と溶け込んだ秀作
キングズ・シンガーズ
 ビートルズ・コレクション
ビクター  6人組アカペラ・グループによるビートルズ・カバー
 イギリスらしいウィットに富むアレンジが微笑ましい
アルヴォ・ペルト
 アルボス
ECM  旧ソ連のエストニア出身の宗教音楽家
 静謐な音楽はミニマム・ミュージックの方向性を変えた
ディック・リー
 マッド・チャイナマン
WEA  シンガポール発のアジアン・ポップの立て役者
 多民族的な融合をテクノ調に託したセンスがいい
ハーモニック・クワィア
 太陽風を聴いて
Harmonia mundi  ディビット・ハイクス率いるホーミー唱法で奏でる不思議な世界
 アナログ収録の柔らかいオーバー・トーンが聴ける


 再生機器
 一般にデジタルvsアナログの議論は尽きないものの、もともとアナログ・テープには高域エネルギーの磁気飽和からくる圧縮作用(テープ・コンプレッション)があり、それが大音量時にソフトな歪みを伴う柔らかい音を演出していたのですが、ほとんどのHi-Fi装置は逆に高域特性を上げることで明晰さを演出してました。80年代にワイドレンジと称して多く製造された国産3wayブックシェルフのほとんどは、スコーカー領域のトランジェットが弱くさらにこの傾向に輪を掛けていたようです。結局こういうところにデジタル録音を持ち込むと、ほとんど聞こえないはずの高域の過度特性が膨らみ過ぎて、知らず知らずに聴覚を刺激する不快な音になるのです。

 ほとんどの人はデジタル録音そのものの性能が劣っていると感じたようですが、一部そういう面もあったにせよ、買った機材よりCDソフトのほうが安いことへの単なる八つ当たりも含まれていると考えられます。実際は単なる相性の問題で、真空管のように高域をソフト・ディストーションで対処する機材を加えることで多少とも緩和できるものです。それでも低域から高域のトランジェットが均一なスピーカーの存在は不可欠であり、その解答のひとつがフルレンジ・スピーカーなのです。私の場合は真空管のバッファー・アンプとパワー・アンプでフルレンジ・スピーカーを鳴らすようにしています。

 もうひとつの文化的傾向としてPCM音源によるコンピューター・ミュージックの流入ですが、80年代初頭ではFairlight社のシーケンサーを初め、ダイナミック・レンジの少ない8bit音源なども多かったこともひとつの問題をはらんでいます。もっともミキシングはアナログをベースに行われたので、高域にアクセントをもたせた音はマスターテープの劣化とともに輝きが損なわれるもので、70年代のアナログ・シンセほどではないにせよ厄介な代物です。特にテクノ関連では70年代初頭に続いて第二の黄金期ともいえる作品が目白押しで、オリジナル・テープそのものが作品といえるこれらの作品はそのまま再生すればオリジナル通りなのかという疑問はずっと付き纏います。そういう評価についてはコンピューターでの音楽製作の知識がなければ判らない部分が多く、今後の課題ということになりそうです。同時に日本のポップ・ミュージックの評価にも繋がっていくものと思います。


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  オーディオの歴史80年の邂逅。見栄えも大事かな?



参考リンク
主に利用している店です。
口コミで評判の良い製品をネットで安く買うのもいいですが
やはり脚を使って実物を聴いたほうが自分の好きな物に出会えます。
オーディオをゆっくり安心して選べる店というのも少ないので関東近辺の方は参考にどうぞ。

ハイエンド・オーディオ
オンケン オーディオ:富士通テン TD512(スピーカー)を購入するときお世話になりました
SIS:Beard Audio BB100(ステレオアンプ:中古品)を購入するときにお世話になりました

レコーディング用機材
Junction Music:Oram Hi-Def 35 (パラメトリックEQ)を購入するときにお世話になりました
サウンドハウス:Digitech VTP-1(マイクプリ)、Lexicon MPX100(エフェクター)、RANE MP2016(DJミキサー)など
           ネットでレコーディング機材を購入するときに利用しています

キット・部品
コイズミ無線:パイオニア PE-16M+スピーカーBOXを購入するときにお世話になりました
ヒノ・オーディオ:Fostex R100T(スピーカー用アッテネータ)を購入するときにお世話になりました
トライスタージャパン:スピーカー・ケーブル、セレクターなどのネットで小物類を購入するときに利用しています

ビンテージ・オーディオ
エイフル:JBL D130+米松箱(スピーカー)を購入するときにお世話になりました
音の市:Altec  802C+511B(ホーン)、JBL N1200(ネットワーク)を購入するときにお世話になりました
アポロ電子:Motiograph MA-7515(モノラル・アンプ)を購入するときにお世話になりました



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