20世紀的脱Hi-Fi音響論(第一夜)

 我がオーディオ装置はオーデイオ・マニアが自慢する優秀録音のためではありません(別に悪い録音のマニアではないが。。。)。オーディオ自体その時代の記憶を再生するための装置ということが言えます。面白いことに映像は平面だが、音響はたとえモノラルでも室内音響の助けを借りて3次元で認識・再現されます。ところで20世紀が残した録音にはどういうものがあるだろうか? 以下、概略ながら追ってみました。


録音年代順のレビュー
 【1920年以前】   【1920〜30年代】   【1940〜50年代】 
 →1960年代以降     
(前夜)モニターの方法
(第二夜)ホーム・オーディオの夢
(第三夜)闘志を燃やすジャンル
(第四夜)トーキー・サウンド
(第五夜)華麗なる古楽器の世界
(第六夜)70年代歌謡曲
(後夜)オーディオの夢の行く末
(延長戦)結婚とオーディオ
掲示板
。。。の前に断って置きたいのは
1)自称「音源マニア」である(ソース保有数はモノラル:ステレオ=1:1です)
2)業務用機材に目がない(自主録音も多少やらかします)
3)メインのスピーカーはシングルコーンが基本で4台を使い分けてます
4)なぜかJBL+AltecのPA用スピーカーをモノラルで組んで悦には入ってます。
5)映画、アニメも大好きである(70年代のテレビまんがに闘志を燃やしてます)
という特異な面を持ってますので、その辺は割り引いて閲覧してください。


録音年代順のレビュー

 我がオーディオ装置はオーデイオ・マニアが自慢する優秀録音のためではありません(別に悪い録音のマニアではないが。。。)。オーディオ自体その時代の記憶を再生するための装置ということが言えます。面白いことに映像は平面だが、音響はたとえモノラルでも室内音響の助けを借りて3次元で認識・再現されます。ところで20世紀が残した録音にはどういうものがあるだろうか? 以下、概略ながら追ってみました。

【1920年以前】

 録音環境
 レコードと言われるモノの最初の頃の記録になります。いわゆるラッパ吹込みで行われました。日本でいえば明治・大正時代、ヨーロッパは第一次大戦以前、アメリカは大恐慌以前の世界。この時代を境に世界が同じ歴史を歩み始めることになるのですが、この時代のレコード群には各地のローカルな地域で活躍してたボードビリアン(大道芸師)の記憶が残っています。いわばレコードのような二次収入なしで、舞台なり酒場なりで演奏することで凌ぎを削っていた人たち。ジャンル分けで一括りなどできない一癖も二癖もある生きた音楽が聴けるのが魅力です。そのかわり音はスクラッチ・ノイズにまみれ貧弱です。

全集 日本吹込み事始 東芝EMI  1903年(明治36年)に来日したガイズバーグ録音集
 雅楽から漫才まで当時の日本芸能を幅広く収録
甦るオッペケペー 東芝EMI  1900年のパリ万博に出演した川上音二郎一座の記録
 オッペケペー節から芝居の見せ場を収録
浅草オペラ 夢ひらく大正浪漫 山野楽器  大正時代の浅草オペラの歌を集めたもの
 
街角のうた 書生節の世界 大道楽レコード  大正・昭和にかけて"おりん"片手に唄い歩いた書生節の世界
 
Music from the New York Stage 英Parl  1890-1920年のミュージカル・ソングを当時の録音で辿る
 ボードビル系からオペラ崩れまで様々なスタイルが密集する
I'll dance till de sun breaks through 英Saydisc  1898-1923年のラグタイムやケークウォークを収録
 ジャズ以前のアフロ・アメリカン音楽が聴ける
Le Moulin Rouge 仏EPM/Ades  1889-1940年のムーランルージュを取り巻く音楽集
 フレンチ・カンカンやカフェ・コンセールなど収録
Singers of Imperial Russia 英Parl  19世紀最強の帝政ロシア時代のオペラ歌手の記録
 ロシア・オペラ以外にもヴェルディやプッチーニなどのアリア多数
イザイ名演集 米Sony  フランコ・ベルギー派のヴァイオリニスト、イザイの録音集
 


 再生装置

A)マグネティック・スピーカー

パテ・マルコニー社 Westminster


 私は基本的にCD復刻で聴くことにしてますが、この時代の録音の再生帯域は200Hz〜4kHz程度、スクラッチ・ノイズにまみれた録音ばかりです。そこで音の美しさよりも、如何に声の帯域をクリアに抜き出すかが目標になります。まず最初に誰でも試してみるのが1920年代のマグネチック・スピーカーでしょうか。コイルでコーン紙を動かすのではなく、金属ダンパーを電磁石で吸い付けることで振動させる方式です。

 私のはカナダのパテ・マルコニー社のラジオ用外付けスピーカー"Westminster"という機種。口径は18インチの大型だが低音も高音も出ない。どうも仏パテ社の縦振動レコード蓄音機がこのような赤いコーン紙を使っており、それに類した意匠で造られたようです。71真空管シングルで鳴らしラジオ放送のアナウンサーの声など聴くと丸い感じの音で心和みます。しかしコンディションが悪く、乾燥すると音がビリつくので、それなりに聴けるという程度というのが本音。ちなみにコーン紙が赤いのはライトアップするというオプションもあるらしいです。これより時代は先だが、ジュークボックス用のスピーカーでやはりそういう効果をねらったものもありました。

Micro Solution社の小型スピーカー


Lissen社のラジオ用トランス


 そこで最近使っているのがMicro Solution社のType-Sという5cm径の小型フルレンジで、パソコンでのDTM用途に作られたスピーカーです。ダブルバッフルという共振点のないエアー抜き機能が付いていて、非常に緩やかながら20Hzまで低音が伸びているらしく、量感はないがこのサイズにしては籠もりのない素直な音で、小型フルレンジによくある点音源でメリハリのある鳴り方が楽しめます。ただ素のままの特性は昔のワイドレンジ・ユニットに似た2kHz辺りにピークをもつ感じに聴こえます。

 このスピーカーの周波数特性をナローレンジに変えるため、戦前のラジオ用低周波トランス(LFT)をCDプレーヤーの出力に繋いでいます。英国のLissenというメーカーのものでベークライト製のケースが時代を感じさせ、特に有名なメーカーというわけでもなく秋葉原のジャンク屋で見つけた一品です。

 このふたつの組合せで聴くラッパ吹込みは、スピーカーのメリハリのある感じとトランスの丸まった音とが美味く噛み合って、スクラッチ・ノイズから声がきれいに抜き出せます。他の資料では戦前の音声トランスは1kHz以上の特性は良好ではなく、ピックアップも4kHz辺りにピークをもたしていたという。そういうことから考えて、Low-Fiなトランスと高域にピークのあるスピーカーの組合せが功を奏したと思います。



 

 改めてこの時代の録音を聴くと、ひとりひとりが自分の方法で音楽を奏でていることが判ります。ラグタイムひとつにしても懐古趣味で演奏する抜け殻ではなく、それによって生活した人たちの実物大の息吹が感じられる。まさに温故知新の楽しみです。

 もうひとつの課題は各ジャンルの伝承を辿れる点です。フランコ・ベルギー派のイザイとティボーの奏法比較など、通常のHi-Fi機器では想像もできないが、こういう装置だと可能になります。浅草オペラとエノケン、ブロードウェイ・ミュージカルとハリウッド映画、ラグタイムとジャズ。。。遠い過去の記憶ではなく、生きた記憶として再生することは実に愉快です。


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【1920〜1930年代】

 録音環境
 この頃になると電磁石を用いたカッティング・マシーンによる電気録音方式になります。再生周波数は100Hz〜8kHzとなり、ラッパ吹込みの頃より1オクターヴずつ伸びたことになります。映画館のトーキー・システムと共に世界中で録音規格が統一されるようになり、商業録音の販売もワールドワイドに展開します。初期はカーボン・マイクでの収録ですが、1930年後半からはRCAのリボンマイク、テレフンケンのコンデンサー・マイクなど、より現在のものに近づいた録音機材が開発されます。音楽的には商業録音の世界的な広がりによって、ジャンル毎の奏法の統一化(流行のマネージメント)が進み、ジャンル毎の名演や決定盤という概念も生まれてきます。

ハリウッド玉手箱 デッカ  ハリウッド映画の主題歌集
 ビング・クロスビー、ジュディ・ガーランドなど
アコーディオン・ド・パリ 学研PLAZ  パリの街頭で流行ったミュゼット弾きの録音集
 
Good Time Blues ソニー  戦前ブルースのうちでもジャグ・バンドの演奏を収録
 空き缶、洗濯板など変わった楽器も登場する
Sir Harry Lauder 英Lismor  スコットランド貴族のミュージック・ホール歌手
 だれかさんとだれかさんが麦畑。。。の作曲家である
Django swings Nuages ビクター  ジャズ・ギターの最初のプレイヤー、ジャンゴの録音集
 ヨーロッパ・ジャズのスタイルを生んだことでも有名
エルナ・ザック名演集 テレフケン  ドイツのナイチンゲールと言われたコロラトゥーラの名唱
 マグネトロン・システムによる収録
想い出の戦前・戦中歌謡大全集 コロンビア  戦前・戦中の懐メロを集めた企画盤
 古賀政男、ディック・ミネ、東海林太郎、淡路のり子など
自作朗読の世界 コロンビア  与謝野晶子、萩原朔太郎、北原白秋など
 白秋のはとても描写的な朗読で面白い
唄うエノケン大全集 ユニヴァーサル  甦る戦前録音集と銘打ってあるとおりのもの
 発売が東京近郊に限られていたようで幻の一品も多数


 再生装置

B)ワイドレンジ・スピーカー

D130を詰めた200リットルのバスレフ箱(横置き用)
(上にちょこんと座る5cm径もなかなかの音)



旧型D130の特性


映画音声のアカデミー・カーブ


Micro Solution社の小型スピーカー


 この時代になるとトーキー・システムと電蓄、ラジオという感じで業務機から民生機のレベルに差がついてきます。私の使ってるスピーカーはJBL D130で、1950年代に製造されたフィックスド・エッジ仕様のものです。これを200リットルのバスレフ箱に詰めています。

 D130は戦前の規格で設計されたワイドレンジ・ユニットで50Hz〜8kHzをカバーしてます。今でいうHi-Fiの規格からすれば不十分ですが、戦前の映画音声の規格だったアカデミー・カーブと比べれば必要十分な再生帯域です。それとこのユニットは2kHzまで+3dB/octで右肩上がりする特性をもっています。これはJBLの顧問をしテラークの録音エンジニアとしても活躍したジョン・アーグル氏が紹介するように「音が前に出る」イコライジングの方法なのだそうです。103dB/W/mという高能率も伊達ではありませんが、ボーカルやギターを周囲の楽器から迫り立たせたい場合、この方法が用いられます。

 逆に高域の伸びは2kHz以上は急激にロールオフしますが8kHzまでは音が入れば反応します。スピーカーとはそういう面もあるので一慨に特性だけが全てというわけではありません。これが古いアカデミー・カーブに載った録音であれば、ワイドレンジ・ユニット一発で十分な帯域が得られるわけです。

 本題の電気録音時代のSP録音は、フラットな特性のスピーカーでは高域が出過ぎるため、イコライザーでカットするのが常なのですが、逆に音がこもった感じになります。これがD130のような古いワイドレンジ・ユニットで聴いた場合、普通のスピーカーで聴くとモゴモゴする音に艶と張りが甦ってきます。特に上記のラジオ用トランスとの組合せはビロードのような味わいで、東海林太郎やパリのミュゼット、ジャンゴのギターなど、生き生きした躍動感と繊細なニュアンスが合わせて聴けます。この演出過剰ともいえる特性はまさに舞台向けのものといえるのです。

 あと38cmもあってビッグ・マウスになるのではと懸念される向きもありますが、モノラルで聴く分には口の大きさがセンターキャップ、コーンの大きさは肩と同じなので、実物大の声が聞こえてきてとてもリアルです。

 もう少しお手軽にこの時代の音楽を楽しみたい方にはMicro Solution社のType-Sという5cm径の小型フルレンジがお薦めです。夜中に小音量で鳴らすと、ラジオ風にとてもバランスよく鳴ります。特に音声領域を綺麗に切抜いて再生してくれるため、普通のHi-Fiシステムを聞き慣れてる人でも、スクラッチノイズに煩わされないという利点があります。



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【1940〜1950年代】

 録音環境
 この時代にはふたつの側面があります。ひとつはドイツが戦中に開発した磁気テープ録音方式が世界的に波及し、やがてステレオ(立体音響再生)にまで進展します。これにより再生周波数は50Hz〜16kHzとなりHi-Fi再生の基礎が築かれました。SP録音より更に1オクターヴずつ伸びたことになります。もうひとつは戦時中に各国で繰り広げたメディア技術の競争がパテントの混乱をまねき、統一が保てない情況が続いたことにあります。看板上の電気特性の違いから始まり、テーブルの回転数、ステレオ方式での45-45、縦横の違いなどまで波及することになります。

モノラル音源
Ella & Luis 米Verve  ジャズ界の大御所2人を配したボーカル・デュオ
 スタンダード・ソングを味わい深く聴ける
アンドリュース・シスターズ ベスト 米Capital  美人3姉妹のロリポップ
 ジャズ・バンドを従えたゴージャスな録音
レハール/喜歌劇「メリー・ウィドゥ」 英EMI  シュヴァルツコップ、クンツらウィーン系歌手を招いての演奏
 中域に厚みをもたせたエレクトローラ円熟期の録音
マーラー/大地の歌 英London  ワルター&ウィーン・フィル
 典型的な初期デッカのffrr録音
ヴァルヒャ/バッハ・オルガン曲集 独Archiv  旧全集から1947年の最初期の録音を集めたもの
 すでにHi-Fi収録として完成された録音である
懐かしの昭和テレビ・ラジオ主題歌全集 日コロンビア  テレビ放送50周年の企画盤
 昔のポンコツの音では想像できないクオリティに脱帽
ステレオ音源
ルロイ・アンダーソン/オーケストラ作品集 米Decca  タイプライター、ほうき、などをソロ楽器に使う奇抜なアレンジ
 アメリカのライト・ミュージックに典型的な甘めの録音
シベリウス管弦楽曲集 英EMI  ビーチャム&ロヤル・フィルによるシベリウス90歳のお祝いアルバム
 ブルムライン方式の自然な初期ステレオ収録が聴ける
バッハ・オルガン曲集 仏Charlin  独自のワンポイント・マイクで収録したシャルランの代表盤
 ワイドレンジでどこまでも広がる音が素晴らしい


 再生機器

 ここではイコライザー・カーブなどメーカー毎の個別問題よりは、むしろもう少し大枠でみたPA機器と放送機器の各業界の音響設計の性格の違いからくる諸問題を考えてみたいと思います。

C)PA機器のレスポンス・カーブ

フレッチャー・マンソンの等感度曲線


等感度曲線の110dB→80dB差分特性


 まずはアメリカのトーキー・システムの流れを汲むサウンド・システムの概略を辿ってみましょう。ホールでの巨大な電気音響機器は映画のみに留まらず、マイクに口寄せて唄うクルーン唱法やレス・ポールのエレキ・ギターなど、演奏方法の変化にも影響を与えながら発展していきます。もちろんレコードもそうしたニーズのもとにオンマイクで収録し、ミキシング、エコー処理など電気的な工夫がされていきます。ただこれらは再生帯域こそHi-Fiであっても、決してフラットな特性ではないという感想を個人的に持っています。

 聴感補正についてはフレッチャー・マンソンの等感度曲線をもとに、大音量に比べ小さい音量では低域を膨らますというトーンコントロールの調整法が一般に流布しています。昔のアンプにラウドネス・スイッチがついていました。しかしAES研究部会のBruce Bartlett氏の論文に寄りますと、大音量(110dB SPL)の演奏を小音量(80dB SPL)で鳴らす場合の差分をフレッチャー・マンソンの等感度曲線に沿って補正すると少し違う特性になるのだと指摘しています。低域のブースト傾向は似ていますが、高域については3kHzを頂点に山成りになった特性で近似できるというのです。つまりステージ上でバランスの取れた音をそのまま拡声して遠くで聴く場合には、この特性で補完することでサウンド・バランスが保てるという仕組みのようです。

 このことを家庭用オーディオに置き換えると、スタジオでのミキシング時にフラットなスピーカーを使用しながら高音圧でモニターしてバランスを取った場合、家庭用のシステムで比較的小さな音で聴く際には補完した特性で聴くと自然なサウンド・バランスになるということかと思います。家庭用オーディオが本物のダミーであるがゆえに、本物らしく聴かせるための工夫がスピーカー側でなされていたということがいえると思います。

 フレッチャー・マンソン特性が発表されたのは1933年のことですが、実際には戦前のスピーカーは単純にレンジが狭いのではなく、ダウンサイズした音響が聴感的に自然になるように補正した特性をもたせることをしていたと言えます。


JBL業務用2135の特性


 JBL D130の業務用仕様である2135の特性を示しますが、初期フェンダーのギターアンプやロック・コンサートのPA装置(Wall of Sound)として活躍した経歴があり、その後もD130FやE130という具合に少しずつ改良されながらかなりの期間に渡って使われました。2kHzを頂点にした山成りの特性はフラットではありませんが、これをバックロード・ホーンの箱に入れて低域を増強した特性は、長い間に渡ってステージ上で実用的だと考えられてきたようです。D130のカタログでは1mWの入力でも30フィート先で52dBの音圧が得られるという謳い文句がありますが、そもそも遠くに音を飛ばすために高能率である以外に、音の明晰性を意識して中高域のブーストを施した工夫が経験的に施されていたと考えられます。50Hz〜6kHzの帯域もリード・ギターやボーカルを再生するスピーカーとして十分だと言えます。これだけで聴くジャズ・ボーカルは深い味わいのある再生音が得られます。


ギター・アンプで有名なJensen P12N



 今なおギター・アンプの垂涎の的であるJensen社のユニットですが、最近復刻ユニットが発売されています。D130に比べて低域の膨らみがあるのは、ギターアンプの後面解放BOXに収めるためにそのままの特性で補完できるようにしてあるものです。エレキ・ギターの高域を太くクリアに鳴らしたい人は多く、10kHz以上の高音の特性を気にするのですが実際には2〜3kHzの中高域のキレが問題であることが多いです。この手のワイドレンジ・ユニットはジューク・ボックスにも良く使われ、ステレオ初期までツイーターなしの単発で用いられたということです。

 同じことが1950年代のElectrovice社のカタログにも記載されていて抜粋すると以下のとおりです。
Listening differences between SP8-B and SP8-BT

Listening Character. Because the Radax principle allows considererable flexibility in design, the frequency response curve shape can be influenced to a high degree by changing the lenghth and weight of the high-frequency cone. The short high frequency cone of the SP8-B allows for augmented response and efficiency in the "presence" region 2-6KC, as shown in the curve. The rool-off in response past 9KC subdues the effects of sibilant distortion and backgraund noise in recorded souces of the usual commercial type. The SP8-BT, with the longer high-frequency cone transfers to the last half octurve, extending the high-frequency response to 17KC, actually beyond the range of hearing, This means that the SP8-BT delivers superb results on very fine tape recordings, and favor when used as a direct monitor for live broadcast and TV. Because high level monitoring is the rule, the usual "presence" rise is not incorporated in this model to equalize the ear characteristic in this region for low levels of operation. For average home use, the SP8-B model is usually selected by user.

訳)SP8-BとSP8-BTの聴覚の違い
聴覚上のキャラクター。Radaxではもっとも柔軟な設計を施すために、高域コーンの長さや重さを変えることにより周波数特性に高度なコントロールすることができます。短い高域コーンをもつSP8-Bでは特性グラフに観るように2-6kHzのプレゼンスを効果的に再生するようにしています。9kHzを過ぎてから減衰するのは一般の録音での歪みや残留ノイズを抑えるためです。SP8-BTでは、長い高域コーンによって更に半オクターブの高域まで伸ばし、聴覚の限界である17kHzまで再生します。これはSP8-BTがとても状態の良いテープ録音や、ラジオやテレビの音声を直接モニターする場合に使われるためです。高度なモニターでは、小さい音で試聴する際の聴覚の補正をかけたプレゼンスの盛り上がりは規定外のことだからです。家庭用に限っていえば、SP8-Bのほうをユーザーは常に選んでいます。

 これはHi-Fi初期の段階では、ラウドネス補正をスピーカーに持たせるのが現実的だったと考えていたことを示しています。逆にスタジオでのモニターは比較的大音量で聴くように規定されていたため、モニター用の特性のものも用意した背景が判ります。一般には後述する放送用モニターが後年のステレオ再生のスタンダードになるわけですが、実用上でラウドネス補正を掛けたほうが有意義であり、録音側のほうでプレゼンスを含ませる方法に変わっていったという経緯があります。



ラウドネス計測カーブ(点線がD-Weighting)


Altec 409-8Eの周波数特性
 さらに音量測定に用いられるラウドネス・カーブには、通常のA、Bの他に、スペシャルなD-Weightingがあります。これはジェットエンジンが主流となった1970年代に、空港での音量計測に用いられるもので、2〜4kHzに10dBにおよぶ大きな膨らみのあります。実はこれが、張りがあって音像が前に出る音の正体で、古いギターアンプ用のスピーカーはもとより、空港でのアナウンス用に使われるAltec 409などは、この特異な周波数特性をそのままトレースしています。つまり、聴感でうるさく聞こえる音を逆手にとって設計がなされているのです。小音量でもしっかり聞こえるスピーカーの代表です。

 上記のスピーカーがHi-Fi創生期の1950年代に考えられたものであるのに対し、D-Weightingは1970年代の規格です。この音調は一般に言われているラウドネス(低音と高音を補正する)とはかなり違っています。ラウドネス・スイッチは多分B-Weightingをもとに補正するように考えたのだと思いますが、これはフレッチャー&マンソン特性までさかのぼると、聴感では全く逆の効果になり、ミス・リードであることは明白です。

Shure社のボーカル・マイクの特性



 Hi-Fi再生でこのようなプレゼンスを録音側に持たせる方向に一気に加速させたのが、ライブ・ステージでよく使われるShure社のボーカル・マイクです。Beta58Aはマイク側で中高域のプレゼンスをもたせるように設計されています(SM58のリリースは1966年)。これはSRシステムがフラットな再生機能を得たうえで、他のドラムやギターとバランスを持たせるための特性であると言えます。低域の膨らみは近接効果によるものですが、マイクが口に近寄るに従い低音が膨らむことになります。一般には200Hzの膨らみは、胸の共鳴を伴った暖かく厚手の音に感じるため、ボーカルを再生する際に有効です。






RCA 44BXと周波数特性



 一般に思い浮かべるロカビリーの音は低音がブカブカでエコーがきついという印象です。では50年代の録音機材が癖のある音調であったかというとそうではなく、RCA 44BXやNeimann U47などいずれもフラットな特性のマイクで収録され、Altec 604などのフラットなレスポンスのモニター・スピーカーで試聴していました。しかしこれを家庭で聴く音量に合わせて山成りの特性のスピーカーで聴くと、ボーカルが張り出して見事にバランスが取れます。ジャズ・ボーカルも深い表現できれいに鳴ります。結局、ステージのうえで大音響で鳴らして丁度良いバランスに合わせて録音されていたように考えられるわけです。それが50年代の録音・再生のスタンダードだったように思います。実際にD130単発で再生したギター、ピアノ、ボーカルに関しては、空間性の再現を抜きにすれば最新の録音でも十分にリアルな音だと感じます。

 ほとんどの場合、一度ミキシングされたマスターテープのバランスはほとんど変更されずに使い続けられるために、フラットな特性のスピーカーでは録音ソースの期待したサウンド・キャラクターが正常に機能しているかはかなり不明です。実際にはかなり大音量で鳴らさないとバランスのとれたようには聞こえない(多くはドンシャリに聞こえる)と思います。過去の録音のリマスターCDも減るどころか増える一方ですが、マスタリング時のサウンド・キャラクターのサジ加減はレコード会社との沈黙の駆け引きとなり、多くはただデジタル変換されて古いバランスのままリリースされるようなので、古い特性のユニットを持っていて損は無いように思います。

 ちなみに日本では以下の放送規格品が戦後まもなくから低価格で量販されていた所為もあり、アメリカで50年代まで続いたPA機器の音響補正のノウハウが抜け落ちていたように思います。早すぎた技術といえるかも知れません。






D)放送規格のモニター・スピーカー

 

往年の名器パイオニアPE-16Mと周波数特性


Altec 604B(15インチ同軸2way)の特性

Altec 400B(8インチ)の特性




BBC御用達のColes 4038と周波数特性




 家庭用音響機器のもうひとつの流れはラジオにあります。こちらは純粋に家庭向けに造られた物で、比較的小音量での再生を前提として作られています。一般に戦争被害の多かった日本とヨーロッパでは家庭におけるラジオのステイタスが高かったように思います。特に国営放送がある国(NHKやBBCなど)では、放送規格が強く深く浸透しているというのが実状だと思います。LP以降はHi-Fi再生の後塵に拝した放送録音ですが、私は放送録音もオーディオのスタンダードとして正面から評価したいと思います。

 日本でのオーディオ機器の開発について言えば、戦中から放送系のものが多かったことも注目されます。テレビの開発の他にも、アルニコ・マグネットに代表される高性能な永久磁石の開発も当時は日本が先行していました。戦中はそれを実現する物量がなかったのですが、戦後になって電化製品の飛躍的な向上はこうした素地のあったことも見逃せません。放送関連ではNHKのBTS規格(後にJISに吸収)が広く浸透していきますが、アメリカの技術を摘み食いしながらも、独自のものも造っていきます。そのひとつが放送局モニター用に開発された三菱のP610に代表される16cmフルレンジ・ユニットです。

 私の手持ちにある同じBTS規格品のパイオニア PE-16Mの特性を示しますが、こちらのスピーカーの特性は100Hz〜10kHzに渡ってフラットであり、PA用のワイドレンジ・ユニットとは異なることが一目瞭然です。同じ頃に開発されたモニター・スピーカーにAltec 604がありますが、周波数特性だけなら同軸2wayに引けを取っていないことが判ります。ちなみに8インチのシングルコーンである400Bは精々5kHzまでフラットですから、分割振動の設計において如何に優れた意匠が施されていたかが判ります。PE-16MはP610に比べ精緻さは劣りますが、2〜4kHzの艶のある美音を奏でる感触があり、フラットに偏りすぎて味気ないというところまで落ちてないところが魅力です。

 一方で日本の放送録音ソースのほうは、これまでまとめてレコードでは聴けなかったので品質にあまり感心が向かなかったのですが、テレビ放送50周年に出された放送局の蔵出し音源を聴くと驚くほど素直な音であることに驚きます。昭和30年代の東芝製Bベロ(RCA 44BXのレプリカ)に代表されるようなリボン・マイクで収録されたふくよかな声は、AM放送の帯域制限のなかではかえって素直すぎて貧弱に聞こえたのかもしれません。当時の欧米ではHi-Fiスピーカーが高級コンソールか家具調スピーカーにしか実装されなかった時分、日本ではかなりダウンサイズされて存在していたのは事実で、ステレオ化されてからもほとんどスペックを変えずに生産され続けました。これら放送音源も昭和30年代の放送作家の言葉遊びも自由闊達であったことと、十分なクオリティがあったことが判って結構楽しめます。もともと優等生タイプの録音ながら、これをPE-16Mで聴くと、折り目正しさと色香が丁度良い塩梅で聴けます。

 同様にフラットな録音を目指していたEMIのスタジオでは、ビートルズがアメリカ盤のカッティングのようなボリューム感のある音質を求めて抗議していた旨がありますが、BBC流儀の品質管理に根差してることからくる矛盾であったと想像されます。しかし後で振り返って赤盤とアンソロジー収録音源とを聴き比べてみると、ライブではロカビリー・バンドを手本にしながらロックンロールを志向したビートルズが、如何にビートルズらしさを紡ぎだしたかが忍ばれます。結局あのエヴァーグリーンな感覚はEMIのスタジオ・カラーと二人三脚で造り出されたという感じがします。

 ドイツの事情も、LP用と放送用では音質に格段の差があり、両者共に一種の別規格のもとに製作されていたと思われます。アメリカでは上記のようなPA機器での音響特性をスタンダードとした歴史が長く、ラジオ放送では今でも音質を加工して流すのが普通で、FM局で極端にコンプレッサーを掛けてブカブカの音で鳴らしている局もあるということです。日本でもNHK以外の民放局ではコンプレッサーを掛けて小音量でのダイナミックレンジを稼ぐ工夫がされています。



実際の再生例

中央下がJBL D130を入れたバスレフ箱
左下がパイオニアPE-16Mを入れたバスレフ箱




 モノラルLPはオーディオ再生でも鬼門のひとつで、上記のような録音・再生の方法論の模索が続いた時期であることと相まって、直接音が主体のモノラル録音だからこそ一種のゴージャスさが必要かと思います。特にホールでのエコーが得られない家庭用システムには音の広がり感を演出するために、部屋の壁を利用したコーナー・ロード・ホーンや音響迷路を用いたラビリンス・システムなど、スピーカー自身に残響特性を持たせたものがモノラルLP時代には多く製作されました。そういう私は貧乏性なのでCD主体で単純なバスレフ箱で聴いてますが、モノラルのカートリッジから蒐集されてる人からみればヘタレの極みというわけです。

 とりあえずPA機器と放送機器との性格の違いを踏まえたうえで録音の問題に踏み込むと、アメリカ系が前者、ヨーロッパ系が後者の仕様が多いように思います。私自身はPA機器の代表格であるJBL D130と、放送用モニターのパイオニアPE-16Mを使っています。実際には綺麗に割り切れる問題でもないので、ふたつを同時に鳴らしてバランスをとる場合もあります。D130とPE-16Mとでは能率が10dB違いますので、低域だけが膨らむということなくバランスが保てるようです。

 D130で聴く日本のポップスはエコーがきついのでリズムが流れますが、PE-16Mだとすっきりと納まります。逆にジャズ・ボーカルはPE-16Mだと綺麗にまとまりすぎで、D130くらいグラマラスな鳴り方が好ましいです。中間的なのはクラシックのソプラノの声で、胸声のふくよかさと頭声の澄んだ倍音とのバランスがどうしても片方だけではとれず、両方で補完しあうというのが実状です。いずれD130にはホーンなどを付けてシアター向けのマルチウェイ・システムにチャレンジする機会があるかと思います。

   Altec 802C+511B、JBL D130
   802Cは1200Hzでカット、D130はスルー
   (積み重ねただけなので美観は勘弁を)

 ようやくJBL D130にAltec 802C+511Bを加えて劇場用とコンサート用のPA装置の折衷的なシステムにしました。802の前身801ドライバーはランシング氏のアルテック在籍中に開発したユニットで、いわば二世代目のユニットになります。一方のD130はランシング氏がそれまでのMGM〜Altecのキャリアを一新した前向きに鳴るユニットです。D130はネットワークをスルー、802CはJBLのN1200ネットワークでローカットをし、D130と802Cはステレオ・アンプをそれぞれのユニットにバイアンプで繋いでます。
 こういう組合せは同様のものにAltecが1970年代に売り出した楽器用スピーカー1204Bがあって、そのときは低域用には421AというD130と同じようなアルミ・センターキャップを配したギターアンプ用ワイドレンジ・ユニットが使われていました。ただユニットは1950年代のものなので、ちょっと緩めのビター・スウィートな鳴り方です。
 古いポップスには相性がよく、Altecのホーンの甘い音がボーカルを中心に広がり、続いてD130の支えるインストがアップテンポに切れ上がっていくという感じです。一方でクラシックには相性があるようで、デッカ、コロンビアには合っていますが、グラモフォンやEMIは苦手でこの辺がクラシック向けでないという意見なのかもしれません。コーン型ツイーターのほうが合っているのかもしれません。



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